骨折の原因のひとつとなる骨粗しょう症は、その発症には食事や運動、嗜好品など、長年の生活習慣が大きく影響しています。
今回は、女性や若年層への広がりも懸念されるお酒とたばこに焦点を当てて、骨への影響を見ていきましょう。
お酒は適量を守ること~適量ならカルシウム吸収に影響は与えない
お酒はカルシウムの吸収の面からは、特に影響はないと考えられています。
昔から、お酒は「百薬の長」といわれ、適量なら健康によいとされてきました。軽く食前酒をたしなむ程度なら、食欲が増して栄養を十分にとることができ、カルシウムをたくさん摂り込むこともできます。
しかし、お酒には利尿作用があるため、体内に吸収されたカルシウムが、必要な分まで排泄されてしまうこともあるので、飲み過ぎはよくありません。また、毎日飲むと少量でもアルコール依存症になることが知られています。
日本骨粗鬆学会は、1日2単位以上の飲酒で骨折のリスクが約1.2~1.7倍高くなるとしています(2006年の骨粗しょう症の予防と治療のガイドラインより)。1日2単位とはアルコール40g相当、ビールで350ml缶3本、日本酒で2合、ワインで480mlぐらいです。
一方、生活習慣病予防の観点からは、「節度ある適度な飲酒」は1日平均、アルコール約20gであるとされています(「健康日本21」)。女性や65歳以上の高齢者の飲酒は、さらに低いことが望ましいといわれています。
これらのことから、お酒は適量を心がけ、休肝日を設けることが大切といえるでしょう。
たばこはカルシウム吸収を妨げ、女性ホルモンの働きも低下させる
たばこの骨への影響を見てみましょう。まず、ニコチンの作用で全身の血流が悪くなります。その結果、胃腸の働きが抑えられ、食欲をなくし、カルシウムの吸収を妨げます。女性では骨から血液中へのカルシウムの流出を防ぐ女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を妨げます。そのため喫煙習慣のある女性は、骨粗しょう症になりやすい危険因子を、喫煙しない女性と比べ一つ多く持つことになるのです。
また、骨密度は非喫煙者、禁煙者、喫煙者の順に低くなり、現在喫煙している人の骨折リスクは約1.3~1.8倍になるといわれています。
つまり、骨にとって、たばこは有害ということです。
喫煙者には様々なリスクが
たばこは、健康にとって「百害あって一利なし」といってもよいでしょう。たばこの煙には、ニコチンのほか、一酸化炭素、タールなどの有害物質や多くの発がん物質が含まれています。そして、喫煙による主流煙よりも、副流煙(たばこが燃えたときに周りに流れ出す煙)のほうが、有害物質が多いこともわかっています。
これにより、喫煙者では肺がん、口やのどのがん、食道がん、膀胱がんなどのがん、酸素不足(慢性呼吸不全)、気管支喘息、肺炎や肺結核などの呼吸器の病気、動脈硬化、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、脳梗塞などさまざまな病気のリスクが高まります。妊娠した女性では流産、早産などの確率が高くなります。
最近では、喫煙は骨折のリスクを高めるだけでなく、骨折してから治るまでの時間も長引かせることがわかってきました。これは患部の血流量が少なくなるためと考えられています。治癒に時間がかかると合併症のリスクも高まるため、骨折の治療中は禁煙が不可欠です。
喫煙習慣はニコチン依存症という病気ですから、やめたくてもやめられない場合は治療の対象となり、健康保険も使えます。現在は効果的な禁煙補助薬や、禁煙したい人をサポートするいろいろな方法があります。喫煙者は「いまさら禁煙しても遅い」とあきらめていることが多いのですが、何歳からであっても、禁煙したその日からたくさんのリスクを軽減し、寿命を延ばすことになるのです。