骨や関節、筋肉などの働きが悪くなると、日常生活に影響して介護が必要になったり、その可能性が高くなります。この状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」といい、40代ぐらいから始まるとされています。骨粗しょう症はロコモを招く原因のひとつです。骨を強くして、骨粗しょう症もロコモも寄せつけない体をつくりましょう。
20~70代男女の半数がロコモ予備軍
日本の総人口が減少傾向にある中、介護を必要とする人は、平成31年度ではおよそ655万人と、この20年間で約2.6倍に増えています(厚生労働省 平成31年度(暫定)介護保険事業状況報告より)。その原因には、脳卒中や認知症などさまざまなものがありますが、見逃してならないのが「運動器」の障害です。
運動器とは、体を動かすのに必要な、骨、関節、筋肉などの総称です。これらが連携して働くことで体はスムーズに動き、どれかひとつでも機能が悪くなると全体の働きが低下します。その結果、痛みが生じたり、歩くのがつらくなったりして生活に支障が生じ、場合によっては転倒から骨折して介護が必要になることもあります。このように運動器の障害により自立度が低下して、介護を必要とする可能性が高くなる状態を「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」といいます。
内臓脂肪が蓄積することで、さまざまな病気を引き起こす「メタボリックシンドローム(メタボ)」については、今ではよく知られるようになりましたが、生涯元気に過ごすためにはメタボだけでなくロコモの予防も大切になります。
骨や関節、筋肉など、運動器の障害を持つ人は増えています。実際、要支援・要介護になる原因の28.9%が骨折・転倒、または関節疾患で、約3.5人に1人が運動器の障害によって自立度が低下しています(厚生労働省 平成28年国民生活基礎調査)。運動器として捉えると、原因の第1位である脳卒中を超える割合になりますが、脳卒中が怖い病気だと認識されている一方で、運動器に対しての重要性はまだ広く認識されていないのが現状です。
ロコモは40代ぐらいから始まるとされ、自分では気づいていない人が多いです。現在、ロコモの人口は、予備軍を含めて4700万人と言われてます。(ロコモチャレンジ!推進協議会調べ)。
ロコモは多くの人で生じる可能性があり、自分だけは大丈夫と安心はできないのです。
骨粗しょう症はロコモの原因のひとつ
では、なぜロコモティブシンドロームが生じるのでしょうか。その原因には大きく分けて「骨や関節の病気」と、加齢や運動不足による「筋力の低下」や「バランス能力の低下」があります。このうちの骨や関節の病気で、代表的な病気のひとつとして骨粗しょう症があります。
骨粗しょう症は、骨をつくる成分のカルシウムなどが減って、骨の中の構造が粗くスカスカになる病気です。
その結果、骨はもろくなり、物を持ち上げたりわずかな力が加わっただけでも骨折しやすくなります。特に骨折しやすいのは、太ももの付け根(大腿骨近位部)、手首(橈骨遠位端)、上腕骨近位部、背骨(脊椎)で、中でも大腿骨近位部を骨折すると手術やリハビリテーションが必要になり、治るまでに時間がかかって介護が必要になることもあります。
骨粗しょう症はロコモの原因のひとつです。骨を強くする生活を心がけ、骨粗しょう症を予防することは、ロコモ予防としても大切なのです。
高齢になると増える膝や背骨の病気も原因に
骨粗しょう症と並んで、ロコモティブシンドロームの原因となるのが「変形性関節症」と「脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症」という病気です。
変形性関節症は、膝や股関節、腰などにある軟骨がすり減ることで痛みが生じる病気です。骨と骨が接する部位は、滑らかで弾力性のある関節軟骨で覆われていて、関節の動きをスムーズにしたり、関節へ加わる衝撃を和らげるクッションの役目をしています。この軟骨がすり減ると、骨同士がぶつかったり、骨に骨棘(こっきょく)と呼ばれる棘(とげ)のようなものができたりして、痛みが起こります。多くは膝関節や股関節に起こり、歩くのに影響が及んで生活の質(QOL)が低下します。変形性関節症は、骨粗しょう症と同様に高齢になるほど増える傾向にあり、いづれかの病気がある人は4700万人にも及ぶとされています。
もうひとつ、歩行に関係した症状が現れる病気として脊柱管狭窄症があります。脳から伸びる脊髄や、そこからつながる馬尾(ばび)と呼ばれる神経は、脊柱管と呼ばれる筒状の空間の中を通っています。この脊柱管が加齢などで狭くなると、中を通る神経が圧迫され、痛みやしびれが起こります。これが脊柱管狭窄症で、特に歩いたときに神経の圧迫が強くなるので、痛みのために長く歩けなくなります。また、圧迫された神経が司る筋肉の機能も低下するので、外出するのがつらくなって家に閉じこもりがちになるなど日常生活にも影響します。
これらの骨や関節などの病気がある場合は、早く気づいて早く治療をすることが大切です。病気により日常の活動がままならなければ、それによりロコモもさらに進んでしまいます。また、痛みなど病気の症状がなくなればそれで終わりということはありません。筋力やバランス能力の低下を極力抑えて、体全体の能力を上げていくことがロコモ予防の基本で、いくつになっても自分の足で歩き、いきいきと過ごすことが目標になります。
筋力やバランス能力の低下で転倒しやすくなる
年齢を重ねますと、多くの人では筋力やバランス能力などの運動機能が少しずつ低下していきます。体を支える筋力が低下すれば、立つ、歩く、階段を上るなどの基本的な動作が困難になり、バランス能力が衰えれば、ちょっとしたことでふらついたり、つまづいて転倒しやすくなります。そして、転倒による骨折で安静にしている時間が長くなれば、それにより筋力が低下して再び転びやすくなる、という悪循環にも陥りがちです。こうした状態が繰り返されると、自立した生活が難しくなって介護が必要となります。
若い人でも運動不足や活動量の少ない生活をしていると、運動機能が年齢以上に衰えて、早くロコモ予備軍になります。筋力やバランス能力は知らず知らずのうちに低下します。「足腰が弱った」「つまづきやすくなった」「速く歩けなくなった」というようなことがあるときは、ひょっとしたらロコモのサインかもしれません。ロコモを予防し、いつまでも若々しい運動器を保つには、まず自分の体の状態を知ることが大切です。