大腿骨頸部骨折は増え続けている
日本人女性の平均寿命は世界一ですが、天寿をまっとうするまでの数年間を、要介護の状態で過ごす人もまた多いのが実情です。
厚生労働省による2016年の調査では、要介護になった理由として認知症が24.8%で1位を占める一方、骨折・転倒が要介護度4で12.0%、要介護度5で10.2%と共に3位に位置し、骨折・転倒が要介護の大きな要因となっていることがわかります。
高齢者の1~2割が年1回は転倒しているといわれ、その約1割が骨折し、さらにその1割弱が大腿骨頸部骨折であるとされています。大腿骨頸部の骨折はとりわけ要介護のきっかけとなりやすく、その背景には骨粗しょう症があることはご存じの方も多いでしょう。
高齢者が1年間に転倒する割合は、65~69歳では5%ほどですが、85歳以上になると22%に増加します。加齢によって筋肉や関節、骨の衰えとともに転倒のリスクも増えていくのです。
女性の大腿骨頸部骨折は男性の3.7倍
また、大腿骨頸部骨折は、高齢の女性に多くみられ、男性の3.7倍にも達します。これは女性の方が男性に比べて長生きだからという理由もありますが、やはり前回(第11回)のトピックスでも紹介した、「骨粗しょう症になりやすい」という点が大きく関わっています。
女性は、女性ホルモンの1つであるエストロゲンの分泌量が減る更年期以降、急激に骨密度が減っていきます。 おおよそ45歳くらいから減りはじめ、閉経前2年と閉経後3年の計5年間でもっとも急激に低下します。そして、60歳代後半では約30%、70歳代前半では約40%もの人が骨粗しょう症になるとされています。
特に高齢の女性は、同年代の男性と比較して、大腿骨頸部をはじめとする骨折を起こしやすいことを忘れないようにしましょう。
大腿骨頸部骨折のもっとも有効な予防策は、骨粗しょう症の治療
骨粗しょう症の治療を行うことで、大腿骨頸部骨折を減らせることはさまざまな研究によって明らかになっています。骨粗しょう症は、脆弱性骨折(※1)があるか、または骨密度がどれくらい減っているかが診断基準となっていて、現在の基準は以下の通りです。
1.背骨(椎体)もしくは脚の付け根(大腿骨近位部)に脆弱性骨折がある場合
2.上記以外の部位に脆弱性骨折があり、YAM値(※2)が80%未満の場合
3.脆弱性骨折はないが、YAM値が70%以下の場合
これら1~3のいずれかに当てはまる場合は、骨粗しょう症と診断されます。
もし骨粗しょう症と診断された場合は、医師による治療を受ける必要があります。
医療機関を受診して、骨粗しょう症を早期に発見し治療を受けることが、転倒・骨折に伴う要介護状態を予防する、もっとも有効な対策と言えるでしょう。
こうした骨粗しょう症の診断基準には当てはまらなくても、骨密度の低下や、生活習慣病などで骨に悪影響を与えていることが疑われた場合は医療機関を受診し、診察を受けるようにしましょう。
※1 転倒か、それ以下の外力による骨折
※2 若年成人平均値。男女別の若年成人(20~44歳)の骨密度に対して、実測した骨密度がどの程度あるかを示す。